Office と基幹システムの断絶を、AI でつなぐ
書類をデータで持てば、つなぐ仕事は、仕事を知っている人の手に戻る
私は 1990 年代の前半に、県で財務会計システムの開発を担当しました。当時はバッチで運用していた時代で、仕事の流れを変える必要があったので、発注する側にも仕事がたくさんありました。
その時から、ずっと問題だと思ってきたことがあります。日常の業務に使う Office ソフトと、基幹システムとの断絶です。
断絶とは
基幹システムには、決まった形のデータが入ります。財務会計なら、予算、支出、決算の数字です。
一方で、日常の仕事は Office ソフトで回ります。起案の文書、説明の資料、集計の表、照会への回答。多くは Word と Excel で作ります。
この 2 つは、つながっていません。間を埋めるのは、人の手です。
- 基幹システムから出した数字を、Excel に打ち直す
- Excel で作った表を見ながら、基幹システムに入れ直す
- 同じ数字や名前を、書類ごとに何度も書く
Office の書類は、印刷したときの見た目で作られています。表の中の数字が何を表しているかは、作った人にしか分かりません。プログラムからは読めないので、つなぐには人が読んで、打ち直すしかありません。
公開用の Web も、業務用のアプリも
公開用の Web も、同じく断絶しています。基幹システムの数字や、Office で作った書類の中身を Web に載せるとき、もう一度打ち直すか、PDF にして貼ります。載った物は、人には読めても、プログラムや AI には読みにくい形です。
業務用のアプリも、ほとんどが Web になりました。でも、画面がブラウザーに移っただけで、つながってはいません。ある画面から CSV を書き出し、Excel で整えて、別の画面に入れ直します。断絶の場所が変わっただけです。
なぜ、30 年続いたのか
基幹システムは、業者に委託して作るのが普通でした。日々の書類の作りまでは、手が届きませんでした。Office と基幹システムをつなぐプログラムを書くには、費用と人が要りました。
Office の側は、書類の見た目を作る道具として広まりました。データを持つ道具ではありません。書類はdocx と xlsx の中に入り、中の数字をほかのプログラムが使うのは難しくなりました。書類を作るにも読むにも同じソフトに頼る形になり、これが囲い込みになりました。
最近は、SaaS を入れたら終わりと考える人が多いようです。でも、SaaS を入れても、断絶は消えません。Office と SaaS の間に移るだけです。
AI で、つなげる時代になった
AI が得意なのは、コーディングです。つなぐプログラム、つまり基幹システムから出したデータを読み、書類に写し、数が合っているかを確かめるプログラムを、安く書けます。
ただし、AI が読めるのは、データとして書かれた物です。見た目のための書類は、AI にも読みにくい。だから、書類のデータを、文字だけのファイルで持ちます。aiai では、adoc という形で書き、印刷するときだけPDF にします。
aiai では、次のようにしています。
- 1 つのデータから、書類を作る。 開業届と青色申告承認申請書では、事業の事実を 1 つのデータ(
事業.sheet.adoc)に書きます。書類ごとのデータは、プログラム(tools/todoke.py)が写します。受け取る側も、同じプログラムで確かめられます。同じことを 2 度書きません - Office の書類は、Office なしで読み書きする。 OSS の文書と表計算の officework は、書類を adoc、表を
.sheet.adocで持ち、docx と xlsx は受け渡しのときに読み書きします。表のセルから、Python の関数を呼べます - 公開用の Web も、同じデータから作る。 事業の Web サイトは、届出と同じデータから、公開してよい事実だけを写して、静的なページにします。人が検索ではなく AI に聞くようになると、AI が読める確かな中身が力になります
- 基幹システムは、置き換えずにつなぐ。 会社や団体には、今の基幹システムをいきなり置き換えず、データを CSV で写して見ることと、周りの仕事から入ります。ERP は、1 つの出来事を 1 度だけ入れ、次の書類はそこから作る仕組みです。日々の書類も、同じ考えでつなげます
つなぐのは、仕事を知っている人
断絶を埋めてきたのは、現場の人の手作業でした。どの数字を、どこから、どの書類に写すのか。それを知っているのは、その仕事をしている人です。
AI はコーディングは得意ですが、その職場で何をしているかは知りません。少し言われると、すぐに方針を変えます。何をつなぐかは、仕事を知っている人が決めます。
1990 年代は、仕事の流れを変えるために、発注する側にも仕事がありました。いまは、業者に委託する代わりに、仕事を知っている人が、AI につなぐプログラムを書かせられます。30 年続いた断絶を埋める仕事は、外の業者ではなく、仕事を知っている人の手に戻ってきました。
まとめ
- 日常の業務に使う Office ソフトと基幹システムは、30 年、つながってこなかった。間は人の手が埋めた。公開用の Web も、Web になった業務用のアプリも、同じく断絶している
- 原因は、書類が見た目で作られ、データとして読めなかったこと。つなぐプログラムに費用と人が要ったこと
- いまは、AI がつなぐプログラムを安く書ける。そのために、書類のデータを文字のファイルで持つ
- 何をつなぐかを決めるのは、仕事を知っている人。それが、AI の時代の、ラスト 1 マイルの仕事です